第342号  (2006年02月13日号)

増田俊男事務局 http://www.chokugen.com
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増田俊男の経済短観(パリより)

グリーンスパン後

グリーンスパンFRB議長退任後の米経済を占うには、今週行われるバーナンキ新議長の議会証言に注目しなくてはならない。住宅ブーム、原油高、雇用拡大、好調な企業業績で懸念されたインフレを抑制するため、グリーンスパンは2004年6月から断続的に0.25%連続14回にわたってFF金利を上げることにより短期金利を上げて、一方利上げで集まる海外資金を債券市場へ誘導して債券高にして長期金利を抑え込んだ。その結果、高金利政策下での住宅ブームと消費拡大という離れ業に成功した。

今日までの米経済好況下での米株価牽引役を果たしたのは原油高のメリットを受けたエネルギー関連と、長期金利安を追い風にした住宅関連であった。ところが、本年2月に入ってから、原油価格が大きく下落して来た。2月10日(金)には1月の高値より6ドルも安い1バーレル62ドル(NY先物市場)をつけ、天然ガスも6カ月ぶりの安値で終わった。

このようにエネルギーと住宅バブル化のインフレ要因が解消しようとしている最中、バーナンキ新議長が今後の金利政策についてどんな発言をするかが注目される。もし利上げ政策中止示唆が発表されれば市場は歓迎し、株価高騰となる。いずれにしても米国の高金利政策中止が目前である環境が整ってきたことは確かである。


日銀の量的金融緩和解消は目前

主な民間調査機関によると、消費者物価指数(CPI)は昨年末までの2カ月間は0.1%の小幅な上昇であったが、2006年1月からは0.4%と急速な上昇に転じると予想されている。すでに三菱東京UFJの畔柳信雄頭取は「日銀は一日も早く、5年にわたって継続されてきた超量的金融緩和政策を終結すべきだ」、「このまま緩和政策を採ること自体不自然になってきた」と述べている。

大手各行は不良債権前倒し(2004年10月)半減、2006年には公的資金返済が確実となっているので、今や超金融緩和は百害あって一利なしになりつつある。産業界も好況で利上げのマイナスは十分消化できるばかりか、資金調達は間接金融から市場を通しての直接調達に変わってきている。円高と好況を見越して外資も益々円資産投資を増やす。こうした日本の経済環境の変化は、量的緩和の必要性がなくなったことを表している。

米国の高金利政策と日本の超金融緩和政策の終焉は日米金利差縮小を招き、今後ドル安・円高となり、米国ではドル安で輸出競争力が付き、住宅ブーム終焉による消費の減退を補完し、一方日本では円高による輸出減少が好況による内需拡大で補完されて、日米経済はバランスの取れた相関関係のもとに成長を続けることになる。

米国では、Homeland Investment Act(本国投資法。2005年末までに海外所得を本国に持ち帰り、雇用増大と基礎技術研究関連に投資した場合、35%の事業所得税を5.25%にする減税時限立法)の効果で雇用拡大、基礎技術投資が促進されるので年末にかけGDPが押し上げられる。ただ、マーケットの牽引役が定まらないのがリスクといえばリスクになる。私は雇用拡大による消費関連中心と毎月発表されるGDP速報が牽引役になると考える。

2006年の米経常収支の赤字は8100億ドル(約95兆円)にまで跳ね上がると予想されているが、消費と設備投資の伸びで経済成長率は予想の3.5%より高めの4.5%を超えると思われるので大きなインパクトにはなり得ないだろう。

総じて言えば、リスク感を上回る成長の実績で米国経済は好況を持続するだろう。年末に中間選挙を控えているから増税はなく、財政支出増で一層の民需拡大となる。日本経済は郵政民営化2007年実効もあり、700兆円になんなんとする休眠資金の活性化で史上まれに見る長期大型景気が約束されている。

今後は、米国に代わって日本経済が世界経済の牽引役となることは確実である。


  

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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)