第368号  (2006年07月13日 国会議員号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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ワシントン発

数時間前(日本時間午前2時)ワシントンに到着した。早速、明日からアメリカ議会の重要メンバーや経済界の重鎮とのインタービューが始まる。国家安全保障会議(アメリカの最高意思決定機関)のメンバーとも夕食の約束ができたが、この件は追って報告する。

さて、以下はブッシュ発言を新聞(大手)記事で追跡したものである。

Right after the launches of North Korean missiles, President George W. Bush personally intervened to persuade the Chinese and Russian leaders to back him with a tough response to North Korea' missile tests.

北朝鮮のミサイル発射後、ブッシュは中国とロシアに(彼らと日本との間に割って入った形で)、個人的考えと断った上で、北朝鮮に対して自分は強い態度をとって見せるので一応支持してくれるよう要請した。

The official statements indicate serious differences remain over the U.S. and Japanese calls at the United Nations for financial and military related sanctions.

公式発表では、ブッシュは日本の国連での経済・軍事制裁決議案とまったく考えを異にしていると発表した。

At White House news conference, Bush conceded that diplomacy takes a while. He had told the four leaders(Japan, China, Russia, South Korea), " Let's send a common message" to North Korea.

ブッシュはホワイトハウスでの記者会見で、外交には時間がかかることを認めた上で、北朝鮮に対しては、米、日、中、ロ、韓で一致した内容のメッセージを送るべきであると呼びかけた。

ブッシュは当初から「この問題は2国間(米朝)ではなく、6カ国協議で検討すべき」と公式発言で結論を暗示している。ブッシュは日本の制裁決議案と自分の考えには大きな隔たりがあるとしながら、かつ全く日本の決議案と相容れるはずのない「4カ国共通メッセージ」を主張しておきながら、なぜアメリカを日本案の共同提案国にしたのか。なぜタカ派のボルトン米国連大使はブッシュの意向に反し、日本と歩調を合わせ北朝鮮に対して強硬姿勢をとったか。日本はブッシュの強気発言(個人的)とボルトン大使の力強いバックアップ、さらに安保理理事国15カ国中13カ国の日本案支持ですっかり対北朝鮮制裁決議案に自信を持つと同時に、日本国内では「船舶規制だけでは手ぬるい」などと強硬論が大勢となり、日本だけで対北朝鮮制裁に走ってしまった。

国連と日本国内で日本が(制裁論で)後に引けなくなったところで、今度は「中国の北朝鮮に対する説得の成果をみよう」とアメリカに言われ、日本は不本意にも国連決議延期に同意させられた。この時点で日本のまともな政治家は、「日本は嵌められた!」と気がついたはず。日本が主張する国連制裁決議とは北朝鮮の「過去の行為」を根拠にしたものだから、「将来に支配される」のは本末転倒。日本が国連決議延期に合意せざるを得なくなることは(少なくとも米、中で)計算されていたことが分かる。

日本は延期に同意した以上(決議案の根拠を過去から将来に移したのだから)、今後国連決議の一方的主張と、日本が先駆けて(勝手に)決定した対北朝鮮制裁(船舶)が「未来のアジア情勢に緊張を起こす」ことになると日本の責任になり、日本は孤立化する。「(北朝鮮を標的にした日米合同軍事訓練を含め)どこの国でもやっている軍事訓練に日本が一方的に制裁を決定し、日本はアジアに新たな緊張を起こした」という理屈が成り立つ。米、中、ロ、韓は用意周到にも「アジアの緊張は好まぬ」と公式発表しているから、北朝鮮の、(こうなることを先刻承知して)「日本が制裁すればさらにミサイル発射(物理的報復と表現)を行う、日朝関係は今や【対決以上の関係】(戦争状態)になった」との公式発表は、「日本の北朝鮮制裁=アジアの緊張」を裏付けることになる。

北朝鮮は6カ国協議復帰の条件に東シナ海での日米合同軍事訓練の中止を求めるが、これは中国を北朝鮮が(中国の一部として)代弁したもの。(北朝鮮は事実上中国の一部であるから、中国の北朝鮮説得などあり得ないし、それはアメリカが一番よく知っていること)。

結論は、日本が制裁決議案を諦めて何の拘束力もない国連議長声明に同意すると同時に北朝鮮船舶制裁中止なら(安倍、麻生失脚)北朝鮮の6カ国協議復帰でめでたしで終わる(もちろんアメリカと中国の裏取引=アメリカの対北朝鮮金融制裁一部緩和があってのことだが)。もし日本が(安倍、麻生がポスト小泉に影響する国民世論を考慮して)拒否すれば、日本は完全に孤立し、北朝鮮はミサイル発射を再度公式に宣言しアジアは再び緊張の度を深め、そしてその責任は日本となる。

北朝鮮のミサイル発射実験による日本を含む関係諸国の国益については前回本稿で述べたが、残念ながら日本の国益だけは若き官房長官や防衛庁長官の軽はずみな先制攻撃的発言で帳消しになってしまった。ポスト小泉は、こんな見え透いた出来レースに引っかからない御仁にお願いしたい。

※ 台湾講演(8月5日)で、今回のワシントン訪問で探ることになっている、中台問題に対する「アメリカの強い意志」を発表します。ご期待ください。


                                      

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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)