第392号  (2006年12月04日 国会議員号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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ユーロはなぜ強いのか?

 ユーロが対ドルで$1.30を超え、対円でも154円にまで達した。EU(ヨーロッパ連合)がユーロを共通通貨として導入して以来、最高値圏で推移している。UAE(アラブ首長国連邦)のスウェイディ中央銀行総裁は世界銀行業会議の席で、米ダラス連銀フィッシャー氏を前にして、臆面もなく「ユーロの世界市場での存在感は2015年にはドルを抜くだろう」と言った。産油国の首脳の見解として注目に値する発言だ。中国人民銀行の周小川総裁も最近の世界金融政策研究会議の席で、欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁やゲストとして参加していたFRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長を前にして「今後、中国は外貨準備の配分見直しをする」と言った。

  ドルからユーロへのシフトが、中国やロシアばかりでなく、産油国にまで広がろうとしている。欧州中央銀行は12月中に6回目の利上げをするだろうし、EUの2006年の経済成長率は日米を上回り、企業はコスト削減努力で通貨高と原油高に対する抵抗力をつけているから、経済ファンダメンタルの国際比較からもユーロ高は説明できる。しかし、最も大きな影響力を持つユーロ高の理由は他にある。EUには近くブルガリアとルーマニアの2カ国が加わり27カ国になるように、ユーロ経済圏は着実に拡大している。ユーロ市場の拡大がユーロ需要を生むのである。

 IMFの外貨準備高統計で世界全体に占める主要通貨の比重は、ドルが約50%、ユーロが25%、円はわずか3.3%である。今後、ユーロの比率が急速に伸びることは間違いない。一方、ドル市場は拡大していない。アメリカの裏庭と言われる中南米の産油国では反米国が多く、11月26日にはエクアドルで反米左派のコレア氏が大統領に選ばれた、さらに本日(12月4日)コレア氏と親密な、これまた強烈な反米主義者チャベス氏がベネズエラ大統領に三選された。アメリカの裏庭はコロンビアを除くすべてが反米諸国となってしまった。

 中南米には中国が原油を求めて関係を深めながら、経済・軍事援助を展開している。イラクに釘付けになっているアメリカは中国の進出に手が出せない状況である。さらに、議会の主導権を民主党に握られた共和党ブッシュはレーム・ダック化している。いまやアメリカの政治力は下降線を辿ろうとしている。2005年までは、アジアの発展途上国は蓄積が進む外貨準備をドル資産にシフトする動きが顕著だったが、2006年11月の大統領選を境に急速にドル安となってきたので、ドルを売ってユーロの保有率を上げ始めたこともドル安の原因となっている。

ユーロは大丈夫か!?

 では、ユーロにリスクはないのだろうか? EUの欧州委員会(EC)は来年の経済展望を発表したが、その中で「EU域内での格差拡大」を指摘している。EU各国の競争力、成長率、インフレの差は一向に縮小していない。今のような好況時はいいが、景気が後退してくると欧州中央銀行は「一定の金融政策」が採り難くなる。金利や財政赤字を加盟国(フランスやドイツ)にさや寄せするのが難しいこともあって、EU加盟国の中には進んでユーロを自国通貨として採用できない国もある。ユーロのリスクは世界的不況時に現れるだろう。

 しかし、少なくとも2008年までは世界的好況が持続するので、ユーロの国際通貨における比重は増し、ドルの信認には陰りが出てくる可能性がある。ブッシュは「自由を世界に拡大する」を合い言葉にドル市場拡大を図ろうとするが、イラクで足踏みをしている間に反米諸国が増大し、ドル市場は逆に縮小しようとしている。

どうするアメリカ!?

 アメリカは現状に甘んじるわけにはいかない。ドル市場の縮小はアメリカの借金をアメリカ自身が払わねばならなくなることだから、ドルは崩壊する。アメリカ最後のチャンスは中国である。あの広大な中国大陸と13億人の労働者が毎秒生み出す富をドルに変える以外に、ドルの維持もアメリカの国家としての存在の保証もないのである。アメリカはいま、中国に内部と外部から忍び寄っている。

そこで日本は!?

 小泉内閣はアメリカ一辺倒であった。実はそれは当然であり、仕方がないことでもあった。議会を制していたブッシュ政権はオールマイティーであったからだ。絶対的政治力を持ち、内需依存型のアメリカ経済は世界経済を主導した。ところが今や、共和党は政治力を失い、ドル安でアメリカ経済は外需依存型にならざるを得なくなった。

 一方、今まで外需依存型だった日本経済は一転して内需依存型に向かい、経済主権を取り戻そうとしている。日本の歴代首相は就任早々アメリカを訪問することが常であったが、安倍首相は就任直後電撃的に中国、韓国を訪問。1月中には英国、フランス、ベルギー(EU本部)、ドイツ訪問も検討している。訪米は来年春の大型連休中にずれ込むようだ。つまり、他意はなくても、「アメリカは後回し」のように見える。安倍首相の「全方位外交」を世界に印象付けるには充分である。

 ブッシュがレーム・ダック化した今ほど、アメリカが日本の協力を必要とする時はない。そして今こそ日本が「世界にモノが言える」時はない! 安倍首相はいい方向に向かっている。若い総理大臣秘書官たちは思う存分世界に向かって安倍首相を押し出す下地作りに専念して欲しい。
「大丈夫だぞ、日本」!





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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)