第396号  (2007年1月12日 国会議員号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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アメリカの内部コンフリクト(対立)

ブッシュは選挙に負けたが……

昨年の中間選挙後以降、アメリカの政治は表向き混迷しているように見えるが、アメリカは順調に国益を追求している。イラク問題で争った中間選挙で、民主党はブッシュ政権のイラク政策は間違いであったと非難。3000人からの犠牲者の惨状を国民にビジュアルで見せ、13万米軍の早期撤退を訴えた。これに対して、ブッシュは「勝つまで撤退しない!」と強気で臨んだ。

民主・共和両党に共通していたことは、「米軍の撤退」である。ブッシュは撤退しないと言っているのではなく「勝ったら(目的を達成したら)撤退する」と言っているのである。負けることの嫌いなアメリカ人気質を読んで「勝つまで……」と言うブッシュ、ビジュアルな犠牲のインパクトで勝負した民主党。この二つの賭けのどちらに(寄付金という名の)カネが集まるかが問われた選挙だった。

結果は言うまでもなく、ビジュアルの勝利だった。どこの国でもそうだが、選挙はプレゼンテーションとカネで決まると言っても過言ではない。選挙と国家運営は別問題と考えるべきだろう。なぜなら、確かに人気で政権は決まるが、人気で政策を運営したら、国は3日で潰れるからである。


2008年3月のイラク撤退はない!

超党派(Bipartisan)の「イラク研究グループ」が2008年3月をめどに米軍のイラク撤退を勧告したからこそ、私は「2008年3月の撤退はない」と断言する。この報告書は2006年3月頃から研究に着手したもので、私は研究員を知っている。この時点で選挙結果は決まっていた。また、ブッシュ共和党も負けねばならぬ(国益上の)理由があったのだ。それを踏まえて「報告書」が作成されたのである。行き詰まったペンタゴン・ネオコン(タカ派)・イスラエルロビー等のブッシュ政権首脳を、国務省・CIA主導へ急転換する必要があった。本報告書は、その急激な転換の衝撃をスムーズにする、いわばクッションとして考えられたものである。

なぜペンタゴンから国務省かというと、2006年に計画していたイラン攻撃が中止になったからである。ペンタゴン・ネオコン・イスラエル主導でイラン攻撃は決定されていたが、EUその他の横槍で頓挫してしまった。13万人強のイラク駐留米軍の主任務は、イラクの治安ではなくイラン攻撃にあった。イラク戦争の目的は、サダム・フセインが原油決済通貨をユーロに換えたのを元のドルに戻すことと、同じくフセインがフランス、ロシア、中国に与えた膨大な埋蔵量を有する油田権利奪還であった。この二つの目的は既に達成されたので、イラン戦争がないなら米軍のイラク撤退は遅すぎるくらいである。


新たな紛争の火種

ところで、「イラク研究グループ」からの報告書へのブッシュの返事は、更に2万2000人の増兵であった。まるで横っ面をひっぱたいたような、まさに民主党と国民の期待に反する返答だった。これはイスラエルロビーとペンタゴン(軍産複合体バック)の巻き返しである。戦場をワシントンからパレスチナへ移してもう一度戦い直そうということである。いま、パレスチナ自治政府議長アッバスの支持基盤であるファタハと、イスラム原理主義組織ハマスが内戦状態になりつつある。イスラエルにとってパレスチナ攻撃の絶好のチャンスであり、ファタハとハマスにとっても組織を挙げて戦う共通の敵が必要な時でもある。「江戸の仇を長崎で」ではないが、戦争続行こそ軍産複合体の繁栄のためであり、そしてその結果が、その波及効果を享受するアメリカ経済である。ブッシュの増兵宣言でNYが株高になったのは当然のこと。




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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)