第403 国会議員号  (2007年2月9日号)

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魔の1月18日(日銀金融政策決定会合)

経済は軍事のようにはいかない。強いものがいつも強いとは限らず、また世界経済の主導権も常に交代する。ここのところ、日本以外の先進国の経済は、ちょうど1980年代後半の日本経済と同様な状況にある。10年間世界経済は供給過剰下での国際競争激化で貿易財価格が低く抑えられたことが消費者物価に影響し、先進国は総じて低インフレ、低金利となった。ところが一方、世界的な過剰流動性は商品市場に流れて資源、原材料価格の高騰を起こし、資産価格、特に株式と不動産価格を押し上げている。低インフレ下の資産価格高騰は、まさに1988年前後の日本経済バブル前夜である。

今、アメリカのやや加熱気味の好況は住宅価格の適度な下落で調整され、利上げも利下げも必要がなく、また3−4%という高くもなければ低くもないGDP成長を持続している。金融政策は不変で、順当に好況を維持するアメリカ経済にさしあたりリスクは見当たらない。当然のこととして、株価は新記録を更新している。しかしながら、こうした良過ぎるほどのアメリカ経済にこそ「漠然とした不安」が芽生えやすい。

今、アメリカ経済は「手探り」状態になっている。1990年の初め、日本経済はかつて経験したことのないバブルに突入、そして「手探り」の三重野日銀総裁による「失策」。その経緯についての説明はいまさら不要だろう。現在、世界の先進国が注目しているのはFRB(米連邦準備制度理事会)バーナンキ議長ではなく、日銀の福井総裁である。それは日銀のみがかつて世紀のバブルの舵取りをして失敗した経験を持つからである。今、世界の先進国はかつてと同様のバブル前夜の「漠然たる不安」の中にある。世界が日本の日銀の次なる動きを見守るのは当然なのである。

果たして、日銀にこの認識があるのだろうか。1月18日の金融政策決定会合で利上げを見送ったのは、政治圧力に屈したからと言われても弁解できないだろう。日銀は市場の信頼を損ね、民間資金は金利の高いアメリカに流出し、さらにキャリートレードで国際ファンドは円の借り入れを増すから、円はどの国際通貨に対しても安くなった。1月18日の時点では、「アメリカは利下げの可能性、日本は利上げの可能性」で為替市場は「円高、ドル安」のトレンドにあった。また円高を機に、日本の輸出企業は外需依存度を落とし内需拡大策を採ろうとしていた。日本経済が外需依存から内需依存に転じれば、今までのような国民の実感なき好況から実感の持てる好況に変わる。日本経済が内需依存に、アメリカ経済が外需依存に転じると、世界経済の主導権が日本に移る。

1月18日はこうした世界からの期待と日本経済好況の構造的転換、さらには世界経済の主導権の日本への移行という最重要な転機となる日であった。日銀が失った市場の信頼は容易に取り戻せない。円安、日本の株価のみ低迷……すべては福井日銀の責任である。「日銀の独立性」とは、時の政府ではなく、「市場との対話」を重要視することである。いま2月の利上げのファンダメンタル上の理由がなくなりつつある。利上げをすれば不合理、またしなければさらに市場の信頼を失う。自ら四面楚歌の状況を作った福井総裁は、かつての三重野総裁に劣らず「軽い」。

4/6(金)〜7(土) 増田俊男の「おもいっきりトーク」2007・春 箱根・桜庵にて開催致します。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)