第429  国会議員号  (2007年8月31日号)

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バーナンキFRB議長を読む

アメリカ経済の舵取り役はFRB(米連邦準備制度理事会)であり、正確を期すなら、議長のバーナンキであると言っても過言ではない。

私はこれまで、「10月までは株価も為替もボックス圏内で、平均的にはやや株高、円高となるが、まだ波乱含み。ポイントは9月18日のFOMC(連邦公開市場委員会)である。この決定を見て、10月から、急激ではなく順当に円高、株高基調になる」と言い、一連の理由を説明してきた。今のところ市場(株・為替)は私の指摘通りになっている。

さて、アメリカの市場がFRBの金融政策に左右されている現実がある以上、バーナンキ議長を知っておく必要がある。彼は2006年2月1日(議会承認は1月31日)議長になる前は、本人はそう呼ばれるのを好まないが、専門家の中ではインフレターゲット論者と言われていた。

彼は、ターゲットという言葉がインフレ率の範囲を政策的に決定するように解される点が気に入らないのだろう。しかし2005年3月、「2005年のコアPCE(エネルギー・食料品を除く個人消費支出)の上昇率は2004年の1.6%をやや上回ると予測され、私のComfort Zone(心地よいと思う範囲)である前年度比1−2%にとどまりそうだ」と、ある講演で述べている。

議会(上院銀行委員会)にはインフレターゲット反対派が多いので、バーナンキは「心地よい範囲」をターゲットと思われたくないのだが、いずれにしても彼がインフレファイターであることは過去の言質から明らかで、FRBの2大目標である「物価安定と雇用最大化」では、彼はむしろ物価安定のほうに重点を置いている。


あるべきインフレターゲット

これは私の見解だが、中央銀行が政策としてインフレ率に枠を設けることには反対である。短・長期にわたっての中央銀行のインフレ率の予想をもとに、その時点のファンダメンタルから考えられる理想のインフレ率を市場に示すことにより、市場が自律的に目標の範囲を想定して反応するのが好ましい。中央銀行がインフレ目標を示すのではなく、市場の自律反応で、結果として中央銀行がインフレ目標率へ市場を誘導したかに見えるのが正しいと思う。

こうした市場の自律作用が効を奏するには、中央銀行の総裁なり議長のカリスマ性が求められる。つまり、総裁や議長のリップサービスの市場への影響力が重要だからだ。例えば、バーナンキの講演での発言(インフレ率1−2%の範囲内の上昇が好ましい)は、インフレターゲット論でもなければ、またそのつもりでもないが、市場はこの数字を意識して作用する。こうした関係が「中央銀行と市場との会話」である。

ECB(欧州中央銀行)は、インフレターゲットとは呼ばないが、Definition of price stability(物価安定の定義)として「プラス2%の目標の設定」をしている。だからECBは物価指数が2%を超えてくると、まるで定期的に決まっていたかのように利上げをする。ところが一方、雇用のほうは、相変わらず失業率が2桁の国が多くなっている。つまり、インフレターゲットと雇用がミスマッチしている。


待望の9月18日

FRBは今回のCredit Crunch(信用収縮)への対処として公定歩合を0.5%下げたため、従来保ってきたFF(政策金利)との1%の金利差が崩れた。この差を埋めるなら、FOMCは9月18日にFF金利を0.5%下げねばならない。仮に0.25%の利下げにとどまるなら、バーナンキは0.25%分のリップサービスをしなくてならない。

それは9月上旬に発表される住宅と消費に懸かっている。7月の新築住宅軒数(8月発表)は予想をはるかに上回ったが、8月の株価暴落の影響もあり、8月の住宅も消費も相当落ち込むと思われる。インフレファイターのバーナンキは、「8月の消費や住宅の落ちは一過性だ」といったリップサービスで0.25%の利下げ(固定歩合1%差の原則からは0.25%の利上げに等しい)にとどめたいだろう。

これなら株価の急騰もなく、ニッケイは1万6000円をベースに、またNYダウは1万3000ドルをベースに緩やかな上昇トレンドになるだろう。1998年のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の破綻のような事件が起きれば0.5%利下げ。しかし、インフレファイターのバーナンキには難しい選択である。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)