第433  国会議員号  (2007年9月28日号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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国益に沿った北朝鮮政策はどうあるべきか

アメリカの外交基本政策

日本の同盟国であり、また北朝鮮がどこの国より重視するアメリカの外交基本政策を知ることなく北朝鮮問題を論じても無意味である。アメリカの外交政策は時としてタカ派的強硬戦略になり、また正反対のハト派的柔軟政策になるが、決してアメリカの基本政策に矛盾するものではない。アメリカは強硬戦略が基本で、柔軟戦略はむしろ強硬戦略実施のための準備期間だと考えるべきである。

アメリカの国家指針はアメリカの国体維持・存続・成長を保障する「自由の拡大」である。それは世界の自由市場化であり、ドル市場の拡大である。世界の自由市場化とドル市場拡大を阻むすべてを排除するのがアメリカ政治の責任である。

言うまでもなく、アメリカは世界最大の対外債務国であるから、ドル市場の拡大でドル需要が恒常的に増大しないと、債務返済のためのドルの印刷ができなくなって経済崩壊する。なかんずく毎日地中から産出するエネルギー資源(今のところ原油)の決済通貨のドル化は至上命令である。「自由の拡大」が目指すドル需要増大、ドル市場拡大こそがアメリカの宿命的国家指針であり、その実行こそがアメリカ不変の国益である。


北朝鮮とアメリカの国益

 アメリカが6カ国協議で目指している北朝鮮の核問題は、アメリカの国益(前述)とどんな関係があるのだろうか。アメリカは北の核廃絶を標榜するが、それがアメリカの国益でないことは明らかである。

核実験もせず、核を保有せず、核開発はIAEA(国際原子力機関)とNPT(核拡散防止条約)の監視下で平和目的のみで行いたいと主張しているイランには武力行使の計画を持ちながら、その一方で、核実験を行い、核弾頭保有の可能性があり、アメリカの言う「ならず者国」へ核技術を拡散している疑いが持たれている北朝鮮には「一切武力行使しない」とアメリカは宣言する。

この矛盾した事実こそが、アメリカにとって「北朝鮮の核廃絶(今や機能停止)は目的のための手段である」ことの証明である。

では、アメリカの目的はなにか。言うまでもなく「ドル市場拡大」と「エネルギー資源確保」である。ドル市場拡大のためにアメリカが目指しているのは「朝鮮半島の統一」(南北朝鮮合併)である。朝鮮半島全体を自由化し、北朝鮮に存在する、2000年分のストックと目されるウラニウムやタングステン(兵器に必需)等豊富な鉱物資源を確保することである。

6カ国協議もアメリカの目的のための手段であることを理解しないで、単に北の核施設の機能停止にこだわっていると、日本はアメリカは元より他国の国益の犠牲になってしまう。日本の国益のために今こそ「楔を打て!」と言いたい。

 現在6カ国協議が目指しているのは、初期段階である寧辺核施設の「機能停止と封印」の確認と他の核施設の登録ならびに機能停止である。日本は6カ国協議の目標が北の核実験以後信じられないほど大きく変化したことを見落としている。それは6カ国協議の目的が「北の核施設の廃絶から機能停止に変わった」ことである。

核施設廃絶とは北朝鮮から核が消え去ることであり、核施設機能停止とは、いつでも、または「一定期間後核施設が再稼動する」ことである。この変化は、北朝鮮の核実験が成功し、日本をはじめ世界が北朝鮮を核保有国として認定し、日本が初めて北朝鮮の核脅威に曝されたとき、米朝間で決定された。

 日本にとっては北朝鮮の核施設廃絶のみが安全に結びつくのに、なぜ核の脅威を温存させる方式に乗っているのか。しかも、こともあろうに6カ国協議に日朝二国問事項である拉致問題を持ち出し、「拉致問題の進展なしに経済協力なし」と、6カ国協議の合意に根拠なき条件をつける。到底正気の沙汰とは思えない。日本は拉致問題については、日朝二国間問題と認識すべきである。

日本は、日本の国益(安全)を無視して自国の国益のみのために北朝鮮に「武力行使をしない」と宣言したアメリカに対して、反省と脅威を与えるほど厳しく北朝鮮に当たるべきである。しかし、拉致問題の解決は朝鮮半島の統一時まで無理であることも覚悟しておくべきだろう。
北朝鮮、韓国、アメリカは、朝鮮半島統一は日本の経済支援なしにはあり得ないと認識している。もし北朝鮮の核の脅威もなく、拉致問題もなく、北朝鮮の核施設が機能停止でなく廃絶だったなら、朝鮮半島統一にとって日本は北朝鮮にも韓国にもアメリカにも重大な影響力を持つことになる。

それはアメリカの国益にとってプラスかマイナスか。日本の発言力をゼロにして統一に必要にして十分な経済援助を引き出すためには、北朝鮮、韓国、アメリカの3国はどうしたらいいのか。北朝鮮問題の過去・現在を分析すれば3国の国益に沿っていることばかりであることが分かるはずだ。


そこで私からの提言

拉致問題は日本の主権に関わる人権問題として認識し、他のいかなる国際問題とも関わりを持たせない。拉致問題を6カ国協議に持ち込んではならない。日本の主権に関わる問題である以上、日本は北朝鮮に対して憲法と臨検等国連安保理制裁決議の範囲内で最高限度の制裁を加えるべきである。結果(何人かの帰国)が出るまで断じてアメ(話し合いや経済援助)を与えてはならない。

6カ国協議での日本の主張は、北朝鮮の核施設機能停止ではなく「核施設廃絶」に徹しなくてはならない。廃絶するなら、廃絶のためのすべてのコストを日本が払うことを世界に宣言する。日本は「北朝鮮核施設機能停止と廃絶の違い」を広く世界に訴えて国際世論を味方につけるべきである。

廃絶から機能停止に切り替えて北朝鮮に核を温存させておけば、安全上の日本の対米依存度は温存される。日本人拉致を人質にとられ、国家の安全をアメリカへ依存したままで朝鮮半島の統一を迎えればどうなるか。

経済破綻国家と2000万人の難民が合流すれば韓国経済は大打撃を受ける。6カ国協議は朝鮮半島の統一を成功させるために日本から引き出せる限りの経済援助を得ようとする手段でしかない。日本は今こそ6カ国協議と(直接)北朝鮮に「楔」を打つ時である。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)