第449  国会議員号  (2008年01月21日号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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日本売りの元凶は?

年初から日本の株価が下げ続けている。日本を代表する大手上場企業の2008年3月決算は5期連続で過去最高益を更新することになっているのになぜだろうか。アメリカ発のサブプライム問題でも、日本の金融機関は先進国中もっとも被害が少なく、みずほコーポが1400億円をメリルリンチへ出資、支援するなど邦銀は米銀に対して有利な立場になっている。にも拘らず、まるで日本の株だけが下がっている現状をどう説明したらいいのだろうか。

福田内閣が始まってから、ニッケイ平均はすでに2500円も下げている。日本の株価の上昇率が年平均40%を達成し、主要国中No.1になった2005年の小泉内閣時代が夢のようである。当時、小泉首相は「改革なくして成長なし」を連発し、世はまさに改革ブームに沸いていた。

また30代の社長ホリエモン率いるライブドアのニッポン放送買収や、村上ファンドの阪神買収などが連日市場を沸かせた時でもあった。株式分割で膨らませた空気のような時価総額を利用して、歴史のある堅い会社を買収した例がいくつもあった。溜め込んだ資産を活用せず、配当もせず、一族の伝統にあぐらをかいていた会社はM&Aの脅威に戦々恐々としていた。

しかし、小泉首相に経済丸投げされ、改革の旗手とまで言われた竹中平蔵氏に対する批判が与党内に起こり始めると、増大した時価総額で企業買収をすることは「錬金術」などと批判されるようになった。やがて時代のホープだったホリエモンも、ファンドの神様村上氏も「粗探し」の対象にされ、あっけなく抹殺された。

以後TOBは「敵対的買収」と意図的に「意訳」され、連日のようにM&A防衛のためのポイズンピルが株式総会で決議され、やがて株式持ち合いも復活した。こうして竹中元金融大臣が強い抵抗に遭いながらやっと果たした改革は、一瞬にして元の木阿弥となった。今にしてみれば、少し自由過ぎたホリエモンや村上氏は、規制で権益を守る官僚機構と、規制で市場の自由攻勢から身を守ろうとする旧体制の格好の餌食になったのであった。

またもや100人中1人のミスを見つけ、またはミスをさせ、自由化を求める99人を縛る日本国官僚と財界の「いつも来た道」に戻ったのであった。あれほど小泉改革を吹聴した日本のマスコミは、踵を返したように錬金術と敵対的買収をまるで諸悪の根源のごとく批判し始めた。


福田改革是正内閣

安倍内閣は小泉改革の実行内閣として巧妙に誕生し、巧妙に崩壊された。そして改革是正内閣として福田政権が自民党の圧倒的支持の下に誕生した。改革是正を掲げる福田内閣は、日本の改革後退に止めを刺すものと市場は判断した。外資にとって、海外資本の自由攻勢に対して防御体制を固めた日本市場は、もはや何の魅力もなくなったのである。  

国内でさえ、王子製紙の北越製紙買収も失敗に終わった。数多くの小泉改革の名は残ったが、中身は見事に旧態に戻された感があった。日本の構造改革期待で日本に投資していた外資系ファンドは、どんどん日本から引き揚げていった。日本政府はさらに金融新法を作り、ファンド起債に規制を掛けた。さらなる市場とマネーの自由への規制の追い討ちである。日本市場が世界の注目の的になった小泉・竹中そしてホリエモンや村上氏の時代はもう二度と来ないだろう。マネーは規制を嫌い自由を好むからである。


アメリカのバブル崩壊も日本売りを加速させた

2002年から2006年のアメリカの好況は、ゼロ金利同然の円に依存した部分が大きかった。安い円はヘッジファンド等外資ファンドの波に乗って世界の成長市場に行き渡り、世界同時好況に貢献した。2007年を迎えると、アメリカでの住宅ブーム終焉が顕著になり、アメリカ経済が内需拡大型から外需依存型に舵を切り替えてくると、国内需要は落ち込み、消費も減退するから国内設備投資需要も落ちる。従って、ファンドは今まで借りていた円を返済するため円買いに走ることになった。

だからアメリカの住宅ブーム終焉と共に円高傾向が顕著になったのである。円高は日本株の投資利益率を上げたので、円返済のための円資金調達と同時にサブプライム問題で資金繰りに支障をきたしたファンドも日本株売りに走った。日本株だけの集中的下落には、こうした日本の改革後退とアメリカの住宅ブーム終焉が背景にあったのである。


『またもや、ジャパン・アズ・No.1の時代がやってくる』(徳間書店)になれるか

「貿易立国日本にとって円高は不利」は間違いである。日本は加工貿易であって、海外から半製品を輸入して国内で付加価値をつけて輸出または国内需要を満たす。だから円高はコストダウンと国内競争力を高める。1995年4月19日、ドル円相場で円は史上最高値79.75円をつけたが、超円高の影響を反映した翌年(1996年)3月決算で、大手輸出企業は未曾有の利益を計上している。

例えば、ソニーは95年2209億円の赤字から96年1380億円の黒字に、また日立は95年2836億円の黒字が96年3486億円の黒字となっている。超円高は日本の輸出企業をこの上なく潤したのであった。2008年3月決算が5期最高になることが決まっているのは、2007年が総じて円高だったからである。2008年円高は過去最高水準(79円75銭)を超えると予想するので、2009年の輸出企業は更なる黒字計上となる。

当然、日本の基幹産業は利益率の高い内需拡大を計るので、これが中小企業に波及し、個人所得を増大させて、さらに消費増に繋がり、国民が好況を実感できるようになる。サブプライム問題が終焉して、アメリカ経済は外需、日本経済は内需依存が市場に明確になった時、世界の資金は一体どこへ向かうだろうか。

拙著『またもや、ジャパン・アズ・No.1の時代がやってくる』(徳間書店)に、外資が「行きたくなくても日本に向かわざるを得ない」理由を列記した。日本買いのためのマニュピレーション(市場操作)は29日、30日(米国時間)のFOMCの前に終わるだろう。


※ 現在、私はテラ・ビブ(イスラエル)にいる。イスラエル建国60周年に当たって開催された国際会議(Herzliya Conference)に参加している。ブッシュ米大統領にイラン攻撃を止めさせた人、チェイニー米副大統領の側近、ライス米国務長官の代理、イスラエル国防長官等々と「親しく」話すチャンスが与えられた。「1月26日」に私が知り得たすべてをお話します。


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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)