第468  国会議員号  (2008年05月21日号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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アメリカの経済危機

サブプライム問題と住宅バブル崩壊でアメリカの金融システムが混乱に陥り、実体産業への影響が深刻になっている。FRBは経済危機を回避するため利下げと資金供給を続けてきたが、その結果ドル安とインフレが加速することになったのはご承知の通りである。

私は金融危機即経済危機にはならないと主張してきた。それは金融はあくまでも富を創造する実体産業への資金供給機関であり、補助機関であるからだ。金融システムの機能が低下すれば中央銀行や政府が支援するから、金融機関の危機は必ずしもそのまま実体経済の危機につながらないのである。では実体経済の危機は何によって起こされるか。それは、消費減退である。おおむね製造業は2−3年先の需要を予測して設備投資や生産計画を立てているから、もし予想に反して需要が低迷すると、大きな損失と労働者の解雇による失業率の増加となる。売上げ低迷、損失増大、失業者数増大が顕在化すれば間違いなく実体産業は不況に陥る。今日までの金融システム危機はアメリカ経済にとって深刻な問題ではあったが、fatal(致命的)な問題ではなかった。しかし、今後もし「消費減退」が進行すれば話は別である。アメリカの主導的実体経済は自動車と軍事産業だが、今日自動車産業に異変が起きようとしている。

アメリカの三大自動車メーカー(GM、Ford、Chrysler)もトヨタ、ニッサン、ホンダも2002年から2005年までは「行け行けどんどん」で毎年1700万台を超える売れ行きが続き、各社とも2008年までには2000万台を予測していた。ところが2006年から売り上げは落ちはじめ本年の予測では1500万台を割ると見られている。アメリカの自動車メーカーのGDPに占める比率は約4%、労働者数は直接間接合わせて250万人。それに年間何千億円の研究開発費が使われている。アメリカのメーカーも日本の大手も同様で3年先の予算に基いて下請けに発注しているのである。原油が130ドルになろうとしている今日、特に燃費の悪い中古車の価格が暴落したことから、ローン金額が市場価格を上回り買い替えができないばかりか、事実上大手メーカーの傘下で、売り上げの25%を占めているレンタルカー業界からの注文も激減している。自動車メーカーの3年先の間違った予想が今後アメリカを始め世界の自動車メーカーの財務体質を極度に悪化させることは間違いないだろう。「自動車メーカー危機」は金融システム危機とは本質的に異なる。それは実体経済の致命的危機を惹起するからである。

ノンリスク天国の日本に世界のマネーが集まる時に合わせて日本政府が本格的に「内需拡大策」に乗り出せば、外資流入による金融、不動産資産増に油を注ぐことになり間違いなく日本経済は飛躍するのだが。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)