第481 (2008年08月18日号)国会議員号

増田俊男事務所 http://chokugen.com

第二次東西冷戦の始まり
アメリカの対ロ挑戦

第二次大戦が終結した1945年以来長きにわたった東西冷戦は1991年ソ連の崩壊で終焉した。その結果20カ国を超えるソ連の衛星国が独立したが、多くの独立国はソ連時代の鉄の結束はないものの、緩やかではあるがロシアの影響下にあった(CIS=独立国家共同体加盟、今回の紛争でグルジアは撤退を決定)。ところが、近年になってウクライナ(CIS加盟中)やグルジアのようにアメリカの梃子入れで民主革命を起こし親米政権となる国が増えてきた。さらにウクライナとグルジアはNATO(北大西洋条約)加盟を希望、NATOも歓迎している。隣国に親米国家ができ、それがNATO加盟国になるということはロシアにとっては隣国にドル経済圏と米製兵器をベースにした軍事対立国ができるばかりか、ロシアと西側軍事態勢間の暖衝地帯を喪失することになる。ロシアがウクライナやグルジアのNATO加盟に執拗に反対するのは当然であり、また逆に西側が2国の加盟を歓迎するのもまた当然である。アメリカは昨年からチェコとポーランドに両国合意の下にミサイルとミサイル・レーダー基地を作ること決めた。イランの脅威に対峙することを理由に掲げているが本音はロシアに対する軍事挑発である。南オセチア自治州の独立運動の歴史はソ連が崩壊した翌年1992年にさかのぼるが、ロシアは一貫してオセチアを軍事・経済支援し、70%を占めるイラン系住民の多くにロシアの市民権を与えてきた。今回のグルジア侵攻のように「ロシア人保護」を適時軍事侵攻の理由に使うためである。イランを理由に対ロ軍事態勢の拡大をはかるアメリカとイラン人保護で軍事行動を執るロシア。イランは米ロ冷戦のために必要な要因になっている。ところで今回のロシアのグルジア侵攻は1979年のソ連(当時)のアフガン侵攻と共通した目的で行われたことをご存知だろうか。ソ連のアフガン侵攻は、カスピ海の石油をアフガン経由でパキスタンのカラチ港まで直線で運ぼうとしたアメリカの野心を阻むためであった。アメリカはアルカイダのビン・ラディーンの協力を得て、北方同盟を味方にしたソ連を敗退させることに成功した。2002年のアフガンのタリバン政権打倒に当たってアメリカはかつての味方ビン・ラディーンを敵にし、かつて敵であった北方同盟を味方にした。アメリカの1979年の野心は今カルザイ親米傀儡政権のもとで実現しようとしている。今回のロシアのグルジア侵攻は、カスピ海の石油をロシア圏を避けてグルジア経由で西側に運ぶアメリカの野心を阻止するためである。ロシア軍は南オセチアのロシア人の安全を守ることが目的と言いながら、実際にはカスピ海からトルコまで石油を運搬するBTCパイプラインを止め、グルジア経済を支える東西幹線道路と港湾を封鎖している。停戦合意後もグルジア領内10キロまでロシア軍が駐屯できるから、グルチア経済は混乱し国民の不満が蔓延し国民は親米、親ロに分断されるだろう。親米政権ウクライナも対ロ危機感を募らせ、対ロ関係はさらに悪化することは確実である。「南オセチア紛争は第二次米ロ冷戦の始まり」と私が言うのはこうした背景からである。


アメリカの衰退が冷戦再開原因

戦後のアメリカによる世界一極支配は、政治支配の恒常的手段であるマネー(ドル)と軍事力によって確立されたことは言うまでもない。21世紀に入り世界に大きな変化が起きた。それは1)中国の経済急成長と核兵器を含む軍事力拡大。2)原油高によって潤うロシア経済と旧ソ連の軍事力回復。3)アメリカの衰退、である。東側の経済・軍事台頭とアメリカの弱体化である。2001年9月11日アメリカを襲った同時多発テロをきっかけに始まったアメリカのテロに対する戦争で人とマネーの国境通過規制が強化されることになったが、これは「安全」を利用した他国の個人情報収集、アメリカのインサイダー情報と通貨流出制限が主目的であるが、同時に雇用増大でクリントン末期のITバブル崩壊に伴う不況の深刻化にストップをかける狙いもあった。各ポートでセキュリティ・チェックという無駄のために投入している膨大なセキュリティー要員を見ればわかる。アメリカの国家安全保障強化政策の本音は実はドル防衛策だったのである。安全という絶対優先要因を利用してまで自由制限をしなくてはドルが守れないほどアメリカは弱体化しているのである。


アメリカ衰退の過程

1975年8月15日ニクソン大統領がドルとゴールドの自由交換を突如禁止するまでアメリカは世界への資金と技術の供給源であり、また世界のバイヤーとして世界経済を支えてきた。ドルは世界の通貨であり、世界経済はアメリカ経済に依存していた。しかしそれはニクソンショックまでであった。1971年8月15日、日本の敗戦記念日は、戦後のアメリカ一極支配の終焉記念日となったのである。日本、西ドイツ(当時)は貿易赤字国から黒字国へ、債務国から債権国へと移行し、アメリカは世界最大の赤字国、債務国へと転落して行った。1985年プラザ合意の時点で1ドル240円であった円はその後瞬く間に100%アップの120円台の円高になった。正に上昇気流に乗る円と凋落するドルを世界に見せ付けることになった。恒常的三つ子の赤字とネガティブ・クレジット(借金漬け)世帯を抱えるアメリカのドルはもはや世界の信任を受けるに十分ではなくなった。ドル保有リスク、いわばドルとの心中リスクを避ける動きは先ずヨーロッパで起きた。EU(ヨーロッパ共同体)と共通通貨ユーロの誕生である。そして「日本を除く」世界の貿易黒字国、特に中国とロシアは外貨準備に占めるドルの比率を急速に減らし始めた。三つ子の赤字国家アメリカ経済は、もし株式会社に例えるなら既に倒産していなくてはならない。三つ子の赤字が改善される可能性はなく、黒字転換、世界の債権国にアメリカがなるなど夢物語だからである。では破綻するはずのアメリカ経済はなぜ存在しているのか。答えは「ニューヨーク」と「ペンタゴン」!である。NYが世界の金融センターであることと、アメリカの軍事力が世界一である事実である。世界の金融センターとは世界の企業が必要資金を集める場であり、世界の余剰資金の投資センターである。つまり渦巻く世界中のマネーの中心的存在であり、コントロール・センターでもある。世界金融センターとしてNYが世界から公認されている要因が二つある。それは株式や債券等の金融商品と鉱物、穀物等産物の商品価格がアメリカのドル通貨で表示されていることである。第二はアメリカ国内と世界中から集まる膨大な資金量をこなすNY市場のインフラ能力の存在である。ところが21世紀になってこのNY市場のライセンスも絶対ではなくなってきた。ロシアをはじめ産油国がドルのリスクを避けるため自国通貨による原油市場の準備を始めている。またアメリカの市場インフラ機能も今日の情報技術の前にもはや特権にはなりえないのである。

” American economy is not self sufficient (アメリカ経済は自立できない)ことを知らねばならない。

アメリカは「外資依存型経済国家」であり、アメリカの好況は外貨の流入によってもたらされ、不況は外貨の流出によって起こる。したがってアメリカの政治目的はソフトとハードを駆使して外貨の流出入をコントロールすることである。ソフトとはかつてクリントン政権前期、世界のマネーがアメリカに一極集中する原因となったITブームの創出であり、また昨今のサブプライム・ローン債権を組み入れた高配当モーゲジ金融商品を牽引車にした外資導入である。ハードとは戦争である。本格的War on terrorが始まった2002年から世界の資金はアメリカへ集中、住宅ブームを促進させると同時にドル高、株高を演出した。



アメリカの次なる手は?

2007年になってWar on terrorが膠着状態になると同時に株式バブルと住宅バブルが崩壊して世界の資金がアメリカ市場から流出していった。当然アメリカ経済はリセッションに陥った。リセッションを終わらせアメリカ経済を好況に誘導するにはどうしたらいいのか。政治の基本に戻って「マネー」と「武力」を手段にして世界の資金を導入すればいい。ところがサブプライム・ローン問題による信用収縮でアメリカの金融システムが致命的打撃を受けているので、今後しばらく「マネー」(ソフト)を手段には使えない。「武力」(ハード)で世界のマネーをアメリカに集中させる以外に方法はない。今回グルジアで見せたロシアの行動が周辺諸国に与えた影響は大きく、親ロ諸国内の民主勢力を元気付けるばかりか、周辺国に親米か親ロかの選択が求められる。いよいよ世界は東西冷戦の方向へ向い始めたのである。今後益々、「米ロ対立・冷戦」の政治的イメージが世界に広まる中で、中東では、昨年30日間経験したヒズボラ・イスラエル戦争を下に、米ロ冷戦の一環として「イスラエル・イラン戦争」に発展することになるだろう。そうなれば、またもや世界資金がアメリカに一極集中し不況転じて好況となる。マッケイン米大統領候補が「強いドルを望む」と主張していることは「アメリカの進むべき本流」に適っている。アメリカが乗るか反るかの時、イラク撤兵など寝ぼけたことを言っているボーヤ(Kid)にアメリカも世界も用はない!



8月15日、終戦記念日に寄せて

日本は侵略国だったのか?もし日本のアジア侵攻がなかったら、日本も西欧のアジア植民地に加えられ、アジアの植民地開放も無かったか、相当遅れたであろう。結果論だが、日本のアジア侵攻なくして今日のアジア無しであった。また日本はアジアの国々で戦争をしたが日本国内(本土扱いされなかった沖縄は除く)でどこの国とも戦争をしていない。日本は空襲と原爆をアメリカから受けて敗戦したが日米本土決戦はしていない。日本に上陸され、戦争をされた国々と、本土で戦争をしたことの無い日本とでは戦争観・歴史観が異なって当然である。相手の身になって考えなければ理解は得られない。では中国と日本の場合どちらが相手の身になって考えるべきなのか。言わずもがなだろう。




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