第347号  (2006年03月10日 国会議員号)

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戦略なき日中ガス田紛争

日本と他国間の国際紛争の解決の手段として、日本は憲法9条2項の定めにより、脅威や軍事力を行使してはならないと規定されている。日中ガス田問題の解決に当たって、中国は日本に対し政治・軍事カードを持つが、日本にはない。しかも、紛争要因が中国経済の死活問題である資源(天然ガス)確保である以上、中国が目的のためには手段を選ばないのは当然である。中国が国益上マイナスになるような日本の要求を呑むはずがない。また中国が、日本が受け入れることができない一方的な権利の主張を強調し、曲げることがないのも当然である。日本には軍事カードがないため、中国の無理で不公平な権益の追求に抵抗できない。

日中中間線付近で中国が開発中の4カ所のガス田開発を即時中止して共同開発をしようという日本の要求は、中国の国益に反するから中国が受け入れることはない。中国がすでに開発中のプロジェクトに日本を加えることは、日本に利益があっても中国にはないから中国が拒否するのは当然のこと。日本ははじめから拒否されるのが決まっていることを中国に要求し続けているのである。日中2カ国間の紛争解決のためいくら協議しても、中国は決して妥協することはない。中国に限らず韓国との問題も、日本が一対一で交渉するなら日本の国益になる結論が出ることはない。

国際問題解決の手段として、日本の相手国は脅威や軍事力が使えるが日本は一切使えないのだから、どんな問題でも紛糾すればするほど日本に分はないのである。国際紛争で日本が使える唯一の手段は「経済制裁」であるが、日本の経済制裁に対し相手国が軍事的脅威で対抗してくれば日本の経済制裁は無効になる。日本と他国との国際紛争の内容が資源や安全のような日本の主権に関わる大問題で、相手国が中国のような日米共通の「仮想敵国」の場合は、同盟国であるアメリカを介入させること以外に解決の道はない。

今回の日中ガス田問題にアメリカを介入させるには、中間線の日本側で帝国石油はエクソン等アメリカのメジャーと共同開発をすればいい。中国は帝国石油だけが開発すれば武力威嚇をしてくるが、アメリカにはできないからである。日本の外務省が日中二国間では一切解決の可能性のない交渉を続けているのは、あたかも有益な結論が出るかのように政府と国民に思わせて、外務省の存在感を維持しようとしているに過ぎない。

3月6−7日、北京で開かれた日米局長クラス協議で、中国は日本が求めた日中中間線付近の4カ所のガス田開発の一時中止と日中共同開発を拒否した上で、台湾の北、尖閣諸島近辺での日中共同開発を提案してきた。この地域で日中共同開発を提案してきた中国の狙いは何か。実は、この地域は中台が将来武力抗争に陥った場合の主戦場になる場所。中国はこの地域を日中油田共同開発地区にして、台湾を軍事バックアップするアメリカ軍をブロックすることを狙っている。

今回の日中ガス田問題で日本がすべきことは、日中中間線でのガス田開発をアメリカのメジャーと共同開発することと、尖閣諸島周辺では日米中三国共同開発を中国に逆提案することである。中台主戦場になる地域を日米中共同開発地区にすることにより、逆に中国軍をブロックできる。この戦略は、中国を軍事包囲することを目的としたアメリカの米軍再編成の指針に合致し、アメリカから歓迎されると同時に日本のエネルギー権益を守ることができる。


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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)