第382号  (2006年10月16日 国会議員号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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とっくに知られていた北朝鮮の核武装

2005年2月、北朝鮮の金正日が核保有宣言をした後、ブッシュ大統領はケリー特使を北朝鮮に派遣して核の有無の調査をさせた。その結果、北朝鮮の核保有はもちろん、ミサイルに搭載する核弾頭保有の可能性も高いと報告された。北朝鮮の核開発の歴史は1994年の米朝枠組合意にさかのぼる。米朝枠組合意とは、北朝鮮に核開発を停止させる代償として軽水炉や原油を供給するというもの。

ところが北朝鮮は日米韓からの援助を受けながら、なんと9年間にわたって密かに核開発を継続していたのである。2003年、米朝枠組合意が反故にされていたことが判明すると同時に、北朝鮮は核拡散防止条約脱退してしまった。以後、国連の核査察要求をかわしてきたが、ついに2005年2月の核保有宣言となったのである。1994年から2005年まで11年間、北朝鮮は核実験を重ねていたのである。

ミサイルについても1993年5月にノドンを発射しているし、1998年8月30日には日本の三陸沖上空をテポドン1号が通過している。日本に向けてテポドンを撃った8年前には、北朝鮮はすでに高度なミサイル技術を持っていたことになる。もし失敗して日本本土に着弾するようなことがあれば、日米安保に基づく米軍の対北朝鮮武力行使の根拠になる。だから相当の自信がなくてはできなかったはずである。それから8年後の本年7月5日、数箇所から発射された7発のミサイルをロシア領の海上にすべて約1キロの範囲内の正確さで着弾させている。10月9日の核実験は、これまた高度な核技術が要求される最小規模実験であった。

ブッシュ政権はイラクには理由なき軍事行動を取ったが、北朝鮮には「軍事行動を取らない」と宣言し続けてきた。それは北朝鮮が高度な核技術を持った核武装国だったからである。当然中国も北朝鮮の核武装は先刻承知のこと。「今回の核実験で北朝鮮が新たに核保有国になった」というのは「モノを知らされていない者」へ向けたメッセージ。ブッシュが北朝鮮のミサイル発射や核実験を「世界から孤立するだけの無謀な行為」というのも同じ類。本当は「絶妙な政治行為」である。

北朝鮮には、精度の高いミサイルと核実験を北朝鮮の核保有事実を知らない世界に向けてプレゼンスすることにより対中関係を悪化させ、かつアメリカには対朝戦略を加速させる狙いがあったのである。北朝鮮のあらゆる政治行為の目的は「国体維持」であり、国体にとって唯一の脅威はアメリカだから、国体維持の保障と引き換えに(1994年から12年間で築いた)核廃絶の交渉ができる相手はアメリカだけである。


6カ国協議は「非武装地帯」!

従って「6カ国協議」は本来北朝鮮の核廃絶のための機関になり得ない。なぜならアメリカ以外の国は北朝鮮の国体にとって脅威とならない相手であり、またアメリカは核廃絶を口にはするが、実は北朝鮮の軍事脅威は中国の軍拡と共にアメリカの極東アジアにおける軍事覇権維持と拡大(米軍再編成)の基盤であり、むしろ北朝鮮の脅威を歓迎する立場である。かつて「張子の虎」のソ連の軍事脅威をアメリカの軍拡の根拠にして世界一の軍事大国を築いたのと同じコンセプトである。

中国は北朝鮮の宗主国、ロシアは北朝鮮への核技術セールスマン、韓国にとって北朝鮮は南北統一後核保有国になれる期待の国。北朝鮮に対してこれだけ利害相反する国が集まって何が決まるというのか。実は6カ国協議の存在意義は、北朝鮮の核廃絶のためではない! 6カ国協議とは、北朝鮮をめぐる関係国間(日本を除く)の利害対立を、今現在の時点で顕在化(軍事抗争化)させないための現状維持型「非武装地帯」である。経済成長中の中国とその恩恵を受けている日米、原油で勢力拡大中のロシア、朝鮮半島統一に向けて北と交渉中の韓国。どこの国もいま利害対立関係を顕在化したくない。だから各国は北朝鮮問題100%解決不可能な6カ国協議を唯一の解決手段として選ぶのである。

北朝鮮と中国との同盟関係が存在している間は、アメリカにとって二国間協議をしても意味がない。今アメリカが現在の北朝鮮の安全を保障すれば中国を利するだけであるし、仮に現体制を崩壊させ民主化すれば困るのは中国である。今アメリカも中国も良好な関係を強化しようとしている。それはまだ(2012年までは)中国はアメリカにとって経済的利益であるし、中国(経済)もアメリカを必要としているからである。だから中国が事実上支配している北朝鮮がアメリカに対して軍事挑戦するのは中国にとって全く好ましくない。にも拘らず、金正日が軍事プレゼンスを続けるのは、中国離反、アメリカ接近を狙っているからである。

北朝鮮にとって最優先目標は「国体維持」。中国にとっては北朝鮮の国体維持は中朝同盟のベースであるが、アメリカの真の狙いは(表向きは核廃絶だが)国体崩壊による北朝鮮民主化である。北朝鮮が求め続けているのは唯一の脅威国アメリカとの2国間協議で安全保障条約を勝ち取ることであって、6カ国協議はアメリカの「逃げ場」と理解している。アメリカが北朝鮮との問題解決の場を6カ国協議と主張するのは、未だに北朝鮮をめぐって中国との対立を激化させたくないからである。

北朝鮮のウラニウム鉱山やその他鉱物資源をめぐっての米中資源戦争が根底に潜んでいる。中国が北朝鮮の体制維持を望むのは、同盟国として資源を抑えられるからであり、一方、アメリカは金正日独裁体制を崩壊に導き、新たに(イラクのように)民主政府を作り、安全保障条約を結び、日本と共に経済援助をすることで北朝鮮を自由化し、ひいてはドルの支配下に置こうとしている。他方、金正日は現行体制維持をアメリカが保障してくれれば、アメリカに白紙委任状を渡そうという腹である。10月15日の国連憲章7章41条(経済制裁)に基づく国連安保理決議に対する北朝鮮の拒否回答が、国連ではなくアメリカを名指しで行われたのは北朝鮮のアメリカ向け「ラブコール」である。

今回の核実験で6カ国協議方式が(当たり前だが)全く機能しなかったことが証明されたために、議長国中国は制裁条項付きの安保理決議に賛成せざるを得なくなった。北朝鮮は今後、更なる軍事プレゼンスで中国との関係を最悪にまでこじらせながら、アメリカを米朝会談へ誘導するのである。


ミサイル発射、核実験、そして次は?

日本は北朝鮮に対して、ミサイル発射から核実験に至るまで独自の制裁を続けている。北朝鮮がミサイルを発射した直後に日本が船舶等制裁を決定した時、北朝鮮は「日本の制裁を宣戦布告とみなし、物理的報復をする」と声明を発している。北朝鮮は10月15日の制裁付き国連安保理決議に対しても「制裁は宣戦布告とみなす」と言って同決議を拒否している。日本は北朝鮮の「制裁=宣戦布告」の声明に対して、国連安保理に北朝鮮の主張の不当性に対する抗議と声明取消決議を求めなかった。日本は北朝鮮の国家としての正式声明を単なる脅しとして無視してきた。国連に北朝鮮の宣戦布告声明の取消決議を求めなかったのは、日本政府の取り返しのつかない怠慢である。

もし北朝鮮が繰り返し主張してきた「制裁=宣戦布告」の声明を根拠に日本だけをターゲットに物理的軍事行動を取ったら、(論理的にも法的にも)その責任は北朝鮮ではなく日本にあることになる。その場合、アメリカは日米安保発動で北朝鮮に軍事圧力を加えるだろうか。アメリカは日本と共に声を大にして抗議はするが武力制裁はしないし、できない! アメリカは北朝鮮が沖縄米軍基地に向けて(核弾頭付き?)ミサイル発射をするリスクを回避するし、日本に対する北朝鮮の武力行使は日本を平和ボケから覚ますことになり、なかんずく遅々として進まぬ米軍再編成への資金協力と沖縄米軍基地問題の早期解決に役立つからである。


中朝分断

今後エスカレートする北朝鮮の軍事プレゼンスで、アメリカは北朝鮮に対する徹底した武力行使を含む制裁を中国に求めるから、中国−北朝鮮関係悪化は加速する。これこそ北朝鮮とアメリカの望むところである。だから日本の突出した対北朝鮮制裁による北朝鮮の対日武力行使も、米朝の望むこところなのである。アメリカが中国と異なり、北朝鮮の金正日独裁体制維持ではなく自由体制を求めるのは、北朝鮮の資源を自由市場のもとに解放することにある。

北朝鮮が中国のような独裁権力ではなく、市場原理の下で「見えざる手」によって支配される自由主義体制になれば、自ずとドルの支配下、すなわちアメリカの支配下になり、ウラニウム鉱山を中国の支配から開放することができる。いつ米朝協議が行われるか? それは北朝鮮軍のクーデターの前でなくてはならない。アメリカはタイムリーに米朝二国協議を行い、中国より一歩先に金正日を亡命させるだろう。金正日が執拗に軍事プレゼンスを続けるのはアメリカへのラブコールであり、「焦り」の現れである。


日本は?

安倍総理の人気にとって有利な行動(北朝鮮強硬路線)を続ければ、自然に(政治力学によって)「5年以内憲法改正」、「美しい国(独立国家)」の目標は達成される。


※ ご安心ください!

ハワイで昨夜マグニチュード6.6の地震がありましたが、サンラコーヒー園もナーサリーもすべて無事でした。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)