第437  国会議員号  (2007年10月29日号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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すべての道はローマに、いやドルに通じる!

私が昨年から言ってきたことは、「2007年10月から円高、株高になる」、「原油は100ドルになる」であった。実際、円は年初の1ドル124円から現在の114円まで10円の円高になり、また株価も9月27日から上昇に転じてきた。さらに原油価格もここのところ92ドルを越し、1バーレル100ドルに近づいてきた。では私の予想の根拠がどこにあったのか。それをご説明すれば、今日の結果の理解と今後の予想にも役に立つと思う。予想の根拠は私の持論、


1) 「2002年から今日まで日米経済好況を支えた経済構造が2007年に大転換する」、
2) 「2008年4月締結を目標に進められている中東和平合意は第五次中東戦争の引き金」
3) 「中国経済のバブル崩壊はない」、に基づいている。

1)日米経済構造変化

クリントン政権8年間のアメリカ経済の牽引車はIT産業だった。そして、2001年3月以降のITバブル崩壊後、アメリカで間髪入れず住宅ブームが起き、その結果内需依存型好況への切り替えに成功した。そして現在、サブプライムローン問題がきっかけとなってアメリカ経済は内需依存から外需依存に移行しようとしている。そこで今、軍産複合体が外需型産業の本命として登場してきた。

サブプライム問題で起こったCredit Crunch(信用収縮)の信用回復のためFRBは資金供給と公定歩合、FF金利の引き下げを行ったが、その反作用で現在、円を始め世界の主要通貨に対しドル安が進行してきた。ドル安・円高の進行は、今までの日米経済の好況を支えてきた経済基盤を根底から覆すことになる。つまり、日本経済は従来の外需から内需へ、アメリカ経済は従来の内需から外需依存型に変化する。ドル安で輸出競争力が増すアメリカの兵器産業が次のアメリカ経済の牽引車になろうとしている。

2)第二次中東和平ロードマップ(2008年4月予定)

イラクの内戦とイスラエルとパレスチナ間の軍事抗争は止まることを知らないが、軍事抗争の根底にあるのはイスラエル(アメリカ)とイランの対立である。2006年11月のアメリカの中間選挙で民主党が議会を制すると同時に、ブッシュ政権の中枢がタカ派からハト派に交代した。その影響は北朝鮮に対する宥和政策と中東和平政策となって現れた。このアメリカの強硬から宥和・和平戦略への変化は「政治目的の変化」だろうか。アメリカの「政治戦略」には常に政治目的があり、アメリカの政治戦略の変化はアメリカの政治目的の変化を意味する。ところがアメリカの政治目的は唯一不変。「ドルの防衛」と「ドル市場(需要)の拡大」以外の何物でもない。なぜならドル市場が衰退し、世界のドル需要が減退したら、ドル増刷による債務補填が不可能となり、世界最大の貿易赤字国、世界最大の対外債務国アメリカは崩壊するからである。

ドルの防衛はアメリカのあらゆる政策・戦略の根底にある宿命的目的(Manifest Destiny)なのである。従って、アメリカの対北朝鮮宥和戦略も中東平和戦略も、実は戦略ではなく単なる目先の手法。それが強硬であれ宥和であれ、目先の手法の変化に過ぎない。イスラエルとパレスチナとの武力抗争は、中東和平合意が存在する時と、現在のように和平合意がない時では同じ武力抗争でも国際的概念と認識を異にする。合意なき現在での武力抗争は地域的暴力行為であり地域的犯罪。抗争関連国家間の国際和平合意下での武力抗争は国際戦争である。

従って、ブッシュ政権中枢がタカ派からハト派に代わって進められている中東和平戦略の目的は、中東戦争である。10月25日ブッシュ政権はイラン精鋭部隊に新たな経済制裁を掛けたが、これは来年中東和平合意成立後のアメリカ〔イスラエル〕の武力行使を正当化するための楔である。正に、2003年3月サダム・フセイン〔イラク大統領〕に対してありもしない大量破壊兵器や核施設を理由に制裁を科したのと同じ手法。第五次中東戦争は既に水面下で始まっているのである。アメリカの政権中枢がハト派に代わった時、原油価格が1バーレル50ドル台に下落したが、アメリカの対北朝鮮、対中東の和平戦略を市場が「誤解」したからである。来年4月が目処の中東和平合意(中東国際戦争の引き金)を見越した更なる原油価格高騰は、中東武力勢力への軍事資金供給増とアメリカの軍産複合体が今後アメリカ経済の牽引車になることを保証するものである。

3)、中国経済にバブル崩壊はない

中国の株価や不動産価格がバブル化しているかどうかを、日本やアメリカ等の経済成長が止まった先進国の指標で判断してはならない。先進国が最高5%成長を目標に努力している現在、中国では2007年になって6度も利上げをし、銀行の窓口規制までして成長を押さえる努力をしている。それでも2007年の経済成率は11%になろうとしているのが現実だ。毎年8000万人の新億万長者が生まれ、これが株式や不動産の潜在投資力になっている。株と不動産価格の上昇は潜在投資力に対する株式と不動産の供給力不足のためである。上海市場への新規参入口座数は既に1億を越し、さらに増え続けている。それに比して、上海市場での新規上場企業数は限定的で新規参入資金増に追いつけない。従って、中国の不動産価格も株価が今後急騰後暴落しても、それはバブル崩壊ではなく一時的「調整」であると言えるのだ。今後は地価も株価も調整を繰り返しながら上がり続ける。

結論:

今後、中国を始めとする成長諸国の経済は外需依存、外資依存から内需、国内資金依存型に向かう。従って、今後日米経済の対中経済依存度はさらに増大し、日米経済の成長基盤はさらに強固になる。アメリカは利下げ、日本は利上げが金融政策の基調となり円高・ドル安が定着する。ドル安でアメリカの兵器産業の国際競争力が高まり、第五次中東戦争の長期化で兵器産業はアメリカの経済成長牽引車として定着する。円高のため日本の基幹産業である輸出産業に内需拡大圧力が掛かる。円高による原材料輸入コストダウンで日本企業の収益は向上し、国内競争力が増し、消費を刺激する。日本経済が内需依存、拡大型になると国内投資増で、従来の外需依存時期と異なり(内需依存時のアメリカのように)国民所得が増大する。今後国内投資増、所得増、消費増、企業利益増の好循環が続く。今や日本は円高定着、株価続伸、所得増、企業利益増と内需依存型経済を背景に自主的金融・財政政策を打ち出す絶好のチャンスである。東京がNYに代わって金融センターになる可能性は十分あるが、問題は日本の政治。シンガポールあたりに代行される可能性が高い。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)