第462  国会議員号  (2008年04月11日号)

増田俊男事務局 http://chokugen.com
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水面の泡ばかり見てはならない

「木を見て森を見ず」とは1800人にもおよぶWall Streetのアナリスト達のことと言えよう。彼らは2007年第三四半期の米企業利益予想をしたが8.2%オーバーしていたし、第四四半期にいたっては33.5%もの過剰予測。2008年第一四半期の米経済は最高利益が期待できると太鼓判を押していたが、Alcoa(アルミ・メーカー)を皮切りにどんどん発表される業績を見ればわかる通りで、結果はまったくの正反対。原油価格の予想では「原油価格が先物市場で上がっているのは一時的な現象に過ぎず、やがて実際の需給を反映した実効価格にもどる。2010年には20ドル台にもどるだろう」と述べてきた。そう言われれば誰でもなるほどと思うだろう。ところが一時的がすでに2年間も上がり続けて今や112ドルに達している。果たして2010年までに20ドルに下落するのだろうか。ドルについてもアメリカの貿易収支が改善されてきているからやがて上昇に転じる、売られ過ぎだという。私は昨年から、原油価格について、2008年は100ドルを突破し、2009年は150ドルになると言ってきた。それは原油価格は需給ではなくリスクのポジション(株式市場のリスクが大きければ資金は商品市場に移動する)で決まると考えているからである。円については2008年中に80円まで上がると言い続けている。アメリカが造って浪費した100兆円を超える信用収縮の穴を世界が埋めきる間ドルは下がり続ける。原油についてもドル・円についてもNYの1800人衆とは180度意見を異にしている。まだ100%結果が出たわけではないが私の見方のほうが正しくて、1800人衆が間違っていたことはもはや明白になろうとしている。彼らは「木」ばかり見ているのではないのだろうか。私はつとめて森が育つ土と水から目を離さないよう心がけている。


今のアメリカはリセッションの最中

アメリカでは2002年から2006年まで不動産とマネーの信用バブルがGDPを4%台まで押し上げ続けた。本誌でくどいほど述べてきたがバブル分を差し引いた真水の成長率は5年間平均で1%以下だった。つまりアメリカでは5年間以上不況(リセッション)が続いているのである。この事実が1800人衆にわかっていないから、バブルの成長率をベースにして真水を計る大間違いを犯したのである。不況の最中にAlcoaなどの実体産業の収益が激減するのは当然のことである。2007年7月私が「明日では遅すぎる」といって「持株の売り」を勧めた時NYの1800人衆は「積極的買いか持続」を勧めていた。大不況の最中に買いを勧められた投資家が崖っぷちから墜落したのは当然である。


グローバル経済の原理を知れば円高なんか怖くない

ドルについても私は昨年から超円高・ドル安を主張してきた。それはアメリカの貿易収支が昨年から急速に改善されてきたからである。1800人衆と正反対の理由である。「グローバル経済とは何か」がわかっていれば誰しも私と同じ意見になったはずだ。

アメリカの貿易赤字が膨大に膨らむと赤字を埋めるため黒字国からどっと資金がアメリカに流入して、(ドルを買うことになるから)ドル高になる。これがグローバル時代の市場原理である。昨年からアメリカの国際収支が改善されたのは住宅ブームが終焉し、内需にブレーキがかかって輸入が減ってきたからである。貿易赤字幅が縮小されればグローバル市場原理で黒字国からの流入資金が減るからドル安になる。円高になるとニッケイで輸出関連株が下がるのは日本のアナリストもNYの1800人衆と同様に頭の中がグローバル化されていないからではないだろか。円高になれば製造業は原材料や半製品の輸入コストが下がるから国内競争力が増す。また雑貨等の輸入コスト減が国内商品価格を押し下げ消費が伸びる。輸出企業もコストダウン効果を収益に結び付けるため国内販売に力を入れるから内需が拡大される。当然企業利益は増大し所得増に繋がる。したがって円高が株価を下げる要因などどこにも無いのである。日本では円高効果が株価に現れるのは3月と9月決算時である。利益が倍増することがわかっているのに、「円高は日本経済にマイナス」という「大昔の念仏」が頭に残っていて自分の目で決算書を見ないと信じられないからである。


もう一波乱ある株式市場

前回本誌で「サブプライム問題は3月末で終わった」と述べたが、近くM&A問題が出てくる。LOB(買収会社の資産を担保にした貸付)のツケがまた投資銀行に回ってくる。買収した会社の株が下がっているのだから当たり前のことだ。これをクリアーするまで金融システム問題は終わらない。欧州のどこかの国で金融危機が勃発してパニックになるかも知れない。もう一波乱は避けられないだろう。中央銀行の資金供給も、潰れかかった投資銀行の増資も公的資金投入もすべて不良債権の先送りに過ぎない。唯一の解決は「銀行の倒産」でしかない。度胸のないFRBが今日の世界経済の「癌」である。倒産すべきは倒産するのが資本主義の大原則。「倒産なくして出直しなし」!製造業相場の前に起こるべきことが起きることになるだろう。今の相場は「本当のプロ」の稼ぎ時。セミプロや素人には難しい時期。本当は、今は100年に一度の稼ぎ時なのですがね。

「明暗の分かれ目」、「乗るか反るかを決める時」と題して経済の「真水」を凝視しながら思うところを述べてみました。投資に、事業にご参考にしてください。



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発信者 : 増田俊男
(時事評論家、国際金融スペシャリスト)